「なんだよ!?」


私になにかあったと勘違いした剣ちゃんが振り返った。


「――って、お前、なんて格好してんだよ!」


下着姿の私にとっさに目をそらそうとした剣ちゃんだったけれど、私の背中を見て動きを止める。


「背中、少し切れてんじゃねぇか!」


剣ちゃんは慌てた様子で私に駆け寄ると、手を差し出してくる。


「なんか、ハンカチとかねぇのか?」

「あ、うん。これ……」


ハンカチを渡すと、剣ちゃんは更衣室にある手洗い場の水で濡らして、私の背中に当てた。

すると、ピリッとした痛みが走る。


「っつう……」

「わりぃ、痛むか? けど、ちゃんと傷口綺麗にしておかねぇと」

「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」


振り向いて笑い返せば、剣ちゃんはほっとした顔をして、手当てを再開する。

私は剣ちゃんに身を任せながら、ふと不思議に思う。
手際、よすぎない?


「手当て、慣れてるんだね」

「あー……まあ、しょっちゅうケガしてたからな」


はっきり物を言う剣ちゃんにしては珍しく、歯切れが悪かった。


「つか、そんなことより。悪かったな、そばにいたのに守ってやれねぇで」

「え? なに言ってるの、剣ちゃんは私のことをいつも守ってくれてるよ?」


剣ちゃんを振り向くと、唇を噛み悔しそうに目を伏せていた。

予想もしてなかった。
私のために傷ついていただなんて。

いてもたっても居られなかった私は格好も気にせずに、剣ちゃんのほうへ身体の向きを変える。

「おいっ、その格好でこっち向くんじゃねぇ」

「剣ちゃん、これくらいのケガ、私は平気」

「……そうは言ってもな。女の肌に傷がつくって、すげぇ一大事だろうが」


剣ちゃんは私から視線を外したまま答える。

そんな優しくて、人一倍責任感のある剣ちゃんの手を握った私は、強気に笑って見せた。