「うん。私の大事な人たちの不安を和らげてくれたことに、すごく感謝してるんだ」

「……お前、ほんとにお人好しすぎんだろ。でも、お前みたいなやつが大勢いたら、世界が平和になりそうだな」


言い方は相変わらずだけれど、剣斗くんのまとう空気が少しだけトゲを引っこめてくれたような気がした。

この調子で少しずつ、剣斗くんと近づけたらいいな。

そんなふうに考えていると……。


『お嬢様!? そこにいらっしゃいますか!?』


夕食の時間になっても現れない私たちを心配して、探しに来てくれたんだろう。
使用人の人に見つけてもらうことができた私たちは、立ち上がって部屋を出る。


「やっと解放されたか」


リビングに向かいながら剣斗くんは、伸びをしていた。

私はその背中を見つめながら、もう少しあのままでもよかったのにな……なんて思う。

そうすれば、もっと剣斗くんと話せたのに。

そう思うとたまには閉じこめられるのも、悪くないかもしれない。

そんなポジティブ思考の自分に、ひとりでくすっと笑っていると剣斗くんが振り返る。


「なにニヤニヤしてんだよ」


嫌なものでも見てしまったみたいに、剣斗くんは顔をしかめていた。
それがおかしくて、私は笑顔を返すと――。


「話しても怒らない?」

「いいから、さっさと吐け」

「実は、もう少し剣斗くんとふたりで話していたかったなーって」

「お気楽なやつ」

「ふふっ、自分でもそう思う」


ゆるんでしまう表情をどうしようもできないでいる私に、剣斗くんの顔がどんどん渋くなったのは言うまでもない。