「そうか! 引き受けてくれるかい!」


剣斗くんの手を両手で握って、お父さんはぶんぶんと上下に振る。


「いやあ、頼もしいよ。愛菜は私たちが過保護に育てすぎてしまってね、人を疑えない性格なんだ。すぐに人を信用してしまうから、私も心配でね」


「あぁ、見るからにお人好しそうですもんね」


――剣斗くん、それはひどくないかな!?
あ、でも……。
会ってからそんなに時間が経ってないのに、剣斗くんにまで言い切られるなんて……。
やっぱり私、警戒心が足りないのかも?


心の中でひとり問答を繰り返しつつ、私はふたりの会話を見守る。


「学園の中までうちの警備員に見張らせるわけにもいかないし、私は政界でも敵が多いからね。一緒にいるとかえって危険だ。だからどうか、愛菜のことをお願いします」


お父さんに頼まれた剣斗くんは、同じように頭を下げる。

こうして私は、厳選された使用人と警備員とともに別邸で剣斗くんと生活することになった。



1時間後、普段使っているリムジンでは目立つので、使用人が使っている車で別荘に移動した。

私は自ら剣斗くんに屋敷の中を案内する。


「剣斗くんの部屋は私の隣で2階だよ。トイレとお風呂は各階にあるから、好きなところを使ってね」

「この建物3階建てだろ? 風呂、3つもいるか?」


私のあとをついてくる剣斗くんは、引きつった顔で屋敷内を見回していた。


「ふふっ、本当だよね。あと、広すぎるよね」

「普段からこのスケールの家に住んでんだろ?」

「うん、お母さんも一般家庭で育った人だから、初めは驚いたって言ってた」

「へえ、お前の母親、庶民だったんだな」

「ふふっ、身分違いなんて言ったら失礼だけど、シンデレラみたいな話だよね」


あ……そういえば。
いろいろあって忘れてたけど、他校生を殴った剣斗くんとは軽く言い合いみたいになっちゃってたのに……。
今、剣斗くんと普通に会話できてるかも。


これから一緒に暮らすわけだし、私のことを少しでも知ってもらえるといいな。
そう思って、まずは自分のことを話すことにした。