「お父さんのしてることは、みんなを幸せにするために必要なことなんでしょう? なら、負けちゃダメだよ」

「お前……」


なにか言いたげに、剣斗くんは私を見ていた。

お父さんはふっと笑って腰を少しだけ上げると、私の頭を撫でる。


「愛菜なら、そう言ってくれると思っていたよ。もちろん屈するつもりはない。でも、私は脅迫文の犯人を突き止めるまで、お前と離れて暮らすことにした」

「え?」

「この屋敷はすでに多くの者に知られているから危険だ。だからお前は、森泉の所有する別荘に移ってくれ」


うちの別荘は、この屋敷から約1時間ほど離れた場所にある。

なにかあったときのために作られた避難場所でもあり、ごく限られた人間しかその存在を知らない。

「そして剣斗くん、パーティーで娘を守ってくれた強いきみにお願いがある」

「お願い……ですか」

「愛菜を24時間密着で守ってほしい」

「…………」


その言葉に一瞬、目を見張った剣斗くんだったけれど、思いのほかすぐにうなずいた。


「まあ、一度守ると決めたからにはやりますよ。そういう約束なんで」


意外だな、面倒だって断ると思ってたのに。

でも、なんだかんだ言ってここぞというときに剣斗くんは私の手を引いて危険から遠ざけてくれていた気がする。

剣斗くんの優しさに、じんと胸が熱くなった。

お父さんは剣斗くんの返事を聞いて、ぱっと表情を輝かせる。