剣ちゃんに助け出されたあと、私たちは警察署で事情聴取をされ、夜になって別邸に帰ってきた。

あれから雅くんは捕まったものの、剣ちゃんのお父さんいわくすぐに保釈されるだろうとのことだった。

お父さん宛の脅迫状のこともあるし、あれだけの大がかりな事件だ。

警察は高校生ひとりの考えで実現するのは難しいだろうという見解で、疑惑は雅くんのお父さんにまで及ぶだろうと、剣ちゃんのお父さんは話していた。

それから、警察署でお父さんとお母さんにも会った。

電話越しでは強がっていたお父さんも、私を目にしたとたんに号泣しだして、お母さんがなだめてたっけ。

ずいぶんと心配かけちゃったな。

こうして、黒幕が捕まったこともあり、私は本邸に戻ることになったのだけれど……。

お父さんとお母さんに、もう一日だけあの別邸で剣ちゃんと過ごしたいってお願いしたら……。


『一日とは言わず、好きなだけ剣斗くんと過ごしていいのよ?』

『うちに婿入りする日も近いな。いや、嫁に行くのか? お父さんとしては複雑だけど、剣斗くんなら安心だな』


なんて、むしろふたりとも乗り気だった。


「ふふっ」


そのときのことを思い出して笑っていると、剣ちゃんにお姫様抱っこされて運ばれる。


「なに笑ってんだよ。つか、このままだと床が濡れるし、抱えてくからな」

「はーい」


警察署でも、タオルで髪や身体をふいたのだけれど、さすがに着替えはなかったので、私の服は濡れたままだった。

剣ちゃんの腕の中でじっとしていると、なぜか私の部屋の前を通り過ぎる。


「え?」


呆然と自分の部屋を見つめているうちに、私は剣ちゃんが泊まっている部屋に連れていかれた。


「剣ちゃん。私、着替えたいんだけど……」


そう言いかけたとき、背後で扉が閉まるより先に剣ちゃんに強く抱きしめられる。


「あー、やっと取り返せた気がする」

「ふふっ、私にくっついてると濡れちゃうよ?」


そうは言いながらも、私も剣ちゃんの首に力いっぱいしがみついた。


「そんなこと、どうでもいい」


私の髪に顔を埋めた剣ちゃんは、鼻をすんと鳴らす。


「愛菜の匂い、ほっとする」


どれだけ心配をかけてしまったのかが伝わってきて、私は剣ちゃんの頭をよしよしと撫でた。

しばらくされるがままになっていた剣ちゃんがぽつりとつぶやく。


「俺さ、決めたわ」

「なにを?」

「お前を守るために、これから真面目に生きる。将来どうするかとか、そんなん今はどうでもいい。ただ、
お前の隣にいられる道を探したい」


大事にされてるのはわかってた。

けど、剣ちゃんがそこまで私を想ってくれてたことに、じんときてしまう。