「なっ……」

「お前、ぺらぺらしゃべりすぎなんだよ。ま、おかげで俺はお前を刑務所に入れられてせいせいするけどな」


剣ちゃんは雅くんのところへ歩いていくと、その胸倉をつかんでゴツンッと頭突きをする。


「次、愛菜に近づいたら、俺はどうするっつった?」

「俺を潰すんだっけ? どうぞ、できるならしなよ」

「お前、全然反省してねぇみたいだな。刑務所じゃなくて、墓に入りたいのか?」


まるで悪党のようなセリフを吐いた剣ちゃんは、靴ひもを解くと雅くんの手足を縛る。

このまま雅くんが捕まって、それで終わりで本当にいいのかな?

私はスッキリしない胸の内を吐き出すように、なにもかも諦めたようなうつろな表情で床に転がっている雅くんに話しかける。


「雅くんが人生をつまらないと思うのは、雅くんが自分の意思で生きてないからじゃないかな」


雅くんはなにも言わなかったけれど、チラリと私に視線を寄越す。

それに少し緊張しながらも、私は言葉を重ねる。


「お父さんが敷いてくれたレールの上を歩いていたから、なにかに悩んだり、困難にぶち当たったり……そういう刺激がなかったんだよ」


なにかに挑戦したり、挫折したり。

落ちこんで這い上がるまでに葛藤する。

そんな瞬間が人間には必要なのかもしれない。


「きっと、すべてがうまくいきすぎてたんだね」


私が雅くんを変えられるとは思ってない。

だけど、道を踏み外す前に雅くんを引き留めるきっかけになったらいい。

そんな願いを込めて伝えると、それまで黙っていた剣ちゃんが考え込むように目を伏せる。


「与えられすぎるのも、よくねぇってことか。雅、お前はなんでも持ってるようで、なにも持ってないんだな」

「なんだと……? 俺はなんでも持ってる! 手に入れすぎたから、つまらないんだよ!」


雅くんが激高したとき、手下の生徒たちがぞろぞろと展示コーナーに入ってきた。


「きみたち、来るのが遅いよ!」


彼らに向かって、雅くんは怒鳴る。

余裕がない感じで手下たちをにらみつけたあと、当然とばかりに雅くんが口にした言葉は耳を疑うものだった。


「……まあいいや。今回のことだけど、大金を払うからきみたちがやったってことにできるよね?」


え……?

少しもためらうことなく罪をかぶれと言う雅くんに、手下たちは私以上にとまどっている様子だった。


「それって、どういう意味だよ」


手下のひとりが聞き返すと、雅くんは鬱陶しそうにため息をついた。