約束の3分が経過した。

水かさはすでに胸もとまで達していて、5月とはいえ身体も冷え切っている。

私、このまま息ができずに死んじゃうのかな。
せっかく剣ちゃんと出会えたのに。

これからたくさん、同じ時を刻んでいけると思ってた。

もっと、ずっと一緒にいたい。
なのに、さよならしないといけないの?

手足がかじかんで震えが止まらず、心も自然と凍りつきそうになっていた。

もうダメかもしれない。
そんな考えが頭をよぎったとき――。


「愛菜!」


聞き覚えのある声。

すぐに誰なのかわかった私は、展示コーナーの入り口を見て涙をこぼす。


「来てくれるって信じてたよ! 剣ちゃん!」


助けに来てくれた剣ちゃんは、ショーケースに入れられた私に気づくと勢いよく雅くんに殴りかかった。


「ムダだよ、俺にはまだ手駒が……」

「外にいた連中なら、全員ぶっ潰したっつうーの!」


容赦なく突き出された剣ちゃんの拳は、雅くんの頬に思いっきり食い込んだ。

そのまま後ろに吹っ飛ぶ雅くんを冷ややかな目で見下ろしたあと、剣ちゃんは私のところに走ってくる。


「あいつ、イカレた趣味してやがんな」


剣ちゃんはホースを引き抜いて、私と目線を合わせるように腰をかがめるとショーケースに手をつく。


「大丈夫だ。すぐ出してやるから」

「うん……ありがとう。鍵は雅くんが持ってる」

剣ちゃんはさっき殴り飛ばした雅くんに視線を移す。

「それは俺が用意した特殊なショーケースだから、この鍵でしか開かないよ」


雅くんはこの状況を楽しんでいるのか、ショーケースの鍵をちらつかせて笑っていた。


「てめぇ、なんのためにこんなことをしやがった? ずいぶん大がかりだな」

「そんな噛みつきそうな顔で見ないでよ。刺激的でしょ、こんなハラハラな舞台」


不謹慎にもほどがある。

当然、剣ちゃんは「楽しそう?」と眉を寄せた。


「お前が楽しむためだけに愛菜をさらったってわけか。てめぇ、愛菜が好きだったんじゃなかったのかよ」

「立派な動機だろ? それにしても、きみって警視総監の息子だったんだね」

「だったらなんだ」

「きみが来たところで、俺は止められないよ。誰であろうと、俺を捕まえることなんて……」


できない、と雅くんはそう言いたいんだと思う。

でも、剣ちゃんは挑戦的な目でハッと笑う。


「それなら、親父が摘発する。今の会話は俺のスマホを通して、親父やほかの刑事にも伝わってんだよ」


剣ちゃんはスマホの通話画面を雅くんに見せる。

そこには剣ちゃんのお父さんの名前と通話中の文字。
自分の状況をすぐに理解した雅くんは、たじろいで後ずさった。