『今までのお前なら、誰かのために力を振るうことはなかっただろう』

「そうかもな。俺にとって強さは、憂さ晴らしの手段でしかなかった」

でも、今は違う。
一方的に暴力をふるえば悲しむ人がいる。

そして、手を出さなければ守れないときっていうのは、きっと今だ。


『愛菜さんを守らせたのは正解だったな』

「親父、まさか俺にそれを教えるために愛菜のボディーガードをやらせたのか?」


そんな考えが頭に浮かんで尋ねると、親父は質問の答えではなく別のものを返してくる。


『剣斗、命の危険があるときにこそ、冷静になれ。お前ならできる』


親父なりのエールだろう。

俺はむず痒くなって、尊大な態度をとる。


「わざわざ言われるまでもねぇ」


そこで自然と会話が途切れ、俺はスマホを胸ポケットにしまうと駆け出す。


愛菜、待ってろ。

これから先も、お前が平穏に暮らせるように。
俺がどんなしがらみからも、解放してやるから――。