「……親父か? 時間がねぇから、手短に話す。愛菜が安黒の息子にさらわれた」

『あぁ、警察に通報があった。こちらも大体の事情は把握している。極秘に対策チームが立ち上がった』


通報をしたのは、おそらく学だろう。

つーことは、あいつらは無事に脱出できたんだな。

それにほっとしつつ、俺は言葉を続ける。


「雅のことだ。警察を呼んでも自分が罪から逃れるために別の人間を出頭させる手はずなんだろ」


でなきゃ、ここまで大胆に動けるはずがない。


『そこまでわかっているなら、なにか考えがあるんだな?』

「あぁ。この通話、切らずに雅んところに乗り込む」

『……なるほど、証拠を残すってわけだな。さすがは俺の息子だ。腕っぷしだけじゃなく、頭もよく回る』


すべてを言わずとも、俺のしようとしていることを察した親父は電話越しに小さく笑った。


『お前が俺を頼るということは、愛菜さんがお前にとって大切な女性になったということか』

「おい、こんなときにする話じゃねぇだろ」


なに考えてんだよ。

前言撤回して電話を切りたくなっていると、スマホからまた親父の声が聞こえてくる。


『図星か。どうやら守りたいものができて、強さの本当の意味がわかったようだな』


……親父、よく『どんな悪人にだって、一方的にふるっていい暴力はない。本当に手を出さなければ、守れないときにだけ使うものだ』って言ってたよな。