愛菜が連れ去られたあと、俺は無力感にさいなまれて壁を思いっきり殴っていた。


「クソッ、目の前で……っ、あいつを……!」


あいつを奪われた。

俺がそばにいたのに!

あいつが異常に愛菜に執着してたのは、わかってただろうが!

ディオも警戒してたし、雅が黒なのはわかってた。

けど、予想以上に学園内に協力者がいたな。

最近までディオがいたから、学園のセキュリティも厳しかった。

だから、しばらく雅も静かにしてたってわけか。


「ちっ、油断した」


学園の外の警備なんて、たかが知れてるってのに。

感情を抑えきれないでいる俺の肩に、学が手を乗せる。


「落ち着け、公共の物を破壊する気か?」

「わりぃ。学、お前は萌を連れて逃げろ」


取り乱した自分が情けなくて、俺は赤くなった拳を隠すように下ろす。


「矢神、お前はどうするつもりだ。勝算はあるのか?」

「一応な。外に出たら警察を呼んでくれ。俺はこいつらを片づけて、すぐに愛菜のところに向かう」


愛菜への道をふさぐ男子生徒たちをにらみすえながら言えば、萌が心配そうに声をかけてくる。


「無事でいてね、ケンケン。それから愛ぴょんのこと、お願いね」

「あぁ、ぜってぇ奪い返すから待っとけ」


その言葉を信じてくれたんだろう。
萌と学はその場を離れていく。

館内に残った俺は生徒たちの顔を見回して、宣言した。


「てめぇら全員、俺にケンカふっかけてきやがったこと、後悔させてやるからな!」


声を張りあげながら、俺は拳を突き出して男子生徒のひとりに殴りかかる。


「ぐはっ、いきなりは卑怯……」

「いきなり殴りかかってきたのは、てめぇらだろうが。落とし前、きっちり自分でつけやがれ」


ぐったりと地面に突っ伏す男子生徒を見たほかの仲間たちは、今度はまとめて襲いかかってきた。

でも俺はその場でしゃがみ込んで、連中の足を払うと倒れたやつらの胸倉をつかんで投げ飛ばす。


「鍛え方が違うんだよ! お前らと遊ぶ気はねぇからな。俺にはすぐに迎えにいってやりたいやつがいんだよ」


俺はざっと15人ほどいた男子生徒を全員倒すと、雅と愛菜が歩いて行ったほうへ足を向ける。


「このへんでいいか」


ほかにも仲間がいることを考えて柱の陰に隠れると、俺は確実に愛菜を守るために親父に電話をかける。