「安黒雅、どういうつもりだ。それに協力しているお前たちも、このようなマネをしてただではすまないぞ」

学くんは倒れ込んだ剣ちゃんの背を支えて、雅くんたちに厳しい目を向けた。

けれども、雅くんは学くんの存在には気にも留めずに、私を引きずるようにその場を離れようとする。


「クソが……」


剣ちゃんは切れた口の端を拳でぬぐうと、私に向かって走ってきた。


「愛菜!」

「剣ちゃん!」


私は手を伸ばすものの、雅くんに従う生徒たちに阻まれて剣ちゃんの姿が見えなくなる。


「必ず迎えにいく、待ってろ!」


剣ちゃんの声が聞こえて、私も精一杯応える。


「うん……うんっ、必ずだよ!」


胸に宿った剣ちゃんの言葉に励まされながら、私は雅くんの背中に訴えかける。


「雅くん、こんなことやめて!」

「きみのこと、手に入れるって言ったでしょ。おとなしくしててよ。でないと……」

雅くんはつかんでいた私の手をさらに強く握る。

「痛っ……」


 骨が折れるんじゃないか。
肌に食い込んだ爪が刺さってるんじゃないか。

そう錯覚するほどの痛みだった。

「今ここで、どうにかしちゃうよ?」


冷たい声にひるみそうになる心を叱咤して、私は痛みをこらえながら訴える。


「こんなことしても、剣ちゃんがすぐに止めるよ。お願い、今からでも……」

「剣斗くんが強いのは知ってるよ。けど、人数には勝てない。あの場で戦えるのは、彼だけだろうから」


私の言葉をさえぎった雅くんは、こちらを少しも振り返ることなく【世界の装飾品】という看板が立っている展示ブースに入っていく。

先ほどのベルのせいか、あたりに人はひとりもいなかった。


「さあ、この中に入って」


雅くんに促されたのは、黒薔薇が敷き詰められたショーケース。

人間ひとりなら、余裕で入りそうな大きさだ。


「この薔薇……まさか、私の下駄箱に薔薇を入れたのは雅くんだったの?」

「そうだよ。それからきみを迎えに行くってメールも、金で雇った男たちに何度もきみをさらわせたのも俺」


悪びれもせずに犯行を自供した雅くんは、少しがっかりしたように肩をすくめる。


「きみなら、もうわかってるものだと思ってたけど……ああ、わかってても信じたくなかった? きみ、吐き気がするくらいお人よしだからね」

「そんな、なんで……」


命を狙われることは、これまで数え切れないほどあった。

怖かったけど、でも同じ学園の生徒が関わっていたということがいちばんつらい。

ショックで言葉を失っていると、雅くんは意に介していない様子で淡々と説明する。