ディオくんが帰国してから3日後。

私たちは校外学習で美術館にやってきた。


「俺にはこの壺の価値がわからねぇんだけど」


剣ちゃんはショーケースを覗き込んで、ムンクの『叫び』のような顔が描かれた壺を見ると興味なさげな顔をする。


「ふふっ、そうかな? 私はかわいいと思うけどな」


私は笑いながら、剣ちゃんの腕に抱きつく。

すると剣ちゃんはぎょっとした顔をする。


「は? これがかわいいって、お前どういう趣味してんだよ」

「前に描いた花の絵でもわかっただろう。森泉の美的センスにはいささか問題がある」


一緒に回っていた学くんが同じように壺を見て、渋い表情をしていた。

でも、萌ちゃんだけは味方だった。


「世の中にはキモかわいいってジャンルもあるくらだし、気持ち悪いも一周回るとかわいい的な?」

「言っている意味が理解できないんだが」


萌ちゃんと学くんのコントさながらの会話を聞きながら、ここにディオくんがいたらもっと楽しいのに、なんて考えて美術品を見て回っていると……。

――ジリリリリッ。

館内にけたたましいベルが鳴り響き、生徒やほかのお客さんたちも何事だと騒ぎ出す。


「美術品を誰かが持ち出そうとしたのか? 念のため、お客様を外に避難させよう」


学芸員たちがそう話しているのを見ていると、ふいに右手に温もりを感じた。


「愛菜」


手をつないできた剣ちゃんに、私もしっかり握り返す。


「ひとまず、俺たちは教員の指示を仰いだほうがよさそうだな」


学くんは萌ちゃんの首に腕を回して保護すると、私たちを先導するようにあらかじめ決められていた集合場所に向かう。


でもその途中、通路の観葉植物の影から飛び出してきた何者かにいきなり剣ちゃんが殴られた。


「がはっ」


不意をつかれた剣ちゃんの身体が横に吹き飛び、手が離れてしまう。


「剣ちゃん!」


私は剣ちゃんに駆け寄ろうとした。

けれど、それを阻止するように背後から腕を引っ張られる。


「いやっ」


腕を振り払うように暴れながら、振り向くと――。


「俺と行こう」

「雅くん!?」


笑っているのに、ちっとも楽しそうじゃない雅くんがそこにいた。


有無を言わせない目つきで私の腕をつかんでいる雅くんの周りには、学園で見かけた生徒の姿がある。

ざっと数えて15人くらいだろうか。

剣ちゃんを殴ったのは、この人たち?

だとしたらなんで、そんなことを……。

どうして、雅くんに従ってるの?