「愛菜、大丈夫か? 顔色が悪いな」

「う、うん……ごめんね、いろいろ思い出しちゃって」


いつも剣ちゃんの陰に隠れてばっかりだな。

いつまで雅くんから逃げ続けるんだろう、私……。

このままじゃだめだと思いながらも、動き出せなかったことを悔やんでいるとディオくんが真剣な表情をする。


「光栄、などと口では言ってましたが、彼は底知れない目をしていますね」


ディオくんは剣ちゃんにしがみついたまま離れない私を気遣うような眼差しでじっと見つめる。

「愛菜もおびえているようです。なにか、彼とありましたか?」


内容が内容だけに、話しにくいな。

私が言いづらそうにしているのに気づいたのか、剣ちゃんが代わりに口を開く。


「いろいろあるんだよ、あいつとは。けど、愛菜にはぜってぇに近づけたくない相手だ」


私を抱きしめる手に力を込める剣ちゃん。

すると、萌ちゃんが心配そうな表情で私のところにやってきた。


「ケンケンは人嫌いだけど、雅っちにはあからさまっていうか……よっぽど危険なんだね。愛ぴょん、萌も愛ぴょんのこと守るからね?」

「萌ちゃん……ありがとう」


なんとか萌ちゃんに笑みを返すと、学くんは「とにかく」と私たちの前に出る。


「昼休みももう終わる。校内を案内するのは後日にして、教室に戻るぞ」


その言葉に賛同した私たちは、その場に立ち込める不穏な空気から逃れるように教室に向かった。