「剣ちゃん、私……」

「風呂でのぼせたんだよ、覚えてねぇか? つか、悪かったな。お前の火照った顔とか見てたら、つい止まんなくなった」


剣ちゃんは耳を赤らめながら、顔をそむける。

それにつられて頬が熱くなるのを感じながら、私は剣ちゃんの手を握った。


「それは私もだから……おあいこでいいんじゃないかな?」


恥ずかしくて、声が小さくなっちゃったから、最後のほうは剣ちゃんに届いていたかわからない。

でも、剣ちゃんは私の手を強く握り返してくれる。


「あぁ、なら……その後で服を着せたのも髪を乾かしたのも不可抗力ってことにしてくれると助かる。あの状態で使用人を呼ぶわけにもいかなかったしよ」

「あ……本当だっ」


髪も乾いてるし、服もいつの間にかネグリジェに着替えさせられてる。


「見ないようには、努力したからな」

付け加えるように言った剣ちゃん。

「なにからなにまで、ごめんなさい」

全部、剣ちゃんがしてくれたのだと思うと恥ずかしくて死にそうだけど……なんでかな。

剣ちゃんが私のためにしてくれることのすべてが、うれしい。

剣ちゃんと出会ってから、こういう小さな幸せに気づけるようになったな。

ふふっと笑ってしまうと、ベッドに剣ちゃんが入ってきて、隣に横になる。


「剣ちゃん!?」

「愛菜が眠るまで、頭撫でてやるから」

「あ、萌ちゃんの給仕リスト、まだやるんだ?」


私は『④ケンケンが眠るまで、頭を撫でてあげるべし』という萌ちゃんのメッセージを思い出していた。


「おう、でも……なんもしねぇから安心しろ。今はちゃんと寝て、ちゃんと休めよ」


剣ちゃんは私を抱きしめると、寝かしつけるように頭を撫でてくれる。


「おやすみ、剣ちゃん」

「おやすみ、愛菜」


私は剣ちゃんの胸に顔を埋めると、規則正しく響く鼓動に誘われるように眠りについた。