「寒椿ですね。きれいな赤だわ」

萌は花の前に近づくとそう言った。

「相変わらず詳しいのね」

私は掘りごたつになったテーブルに腰を下ろしながら、髪をお団子に結わえた萌の後ろ姿につぶやく。

「でも、ちょっと触ってもいいかな……」

萌は私の方を見て一瞬首を傾げると、三本入った椿のうちの一本の花の向きをほんの少しだけ変えた。

その途端、さっきまで元気がなかったように見えた花が凛と美しく立ち上がったように見える。

「なんだかさっきよりもよくなったみたい」

「ええ、勝手に触っちゃ悪いかなとは思ったんですけど、きっとこの方がお花も喜ぶかな?」

萌はペロッと舌を出し、私の前に座った。

「生け花って『花を生かす』って書くでしょう?ちょっとした花の向きで花って不思議なくらい生きてくるんです」

「へー、そういえば花を生かすって、そういう意味があるんだ。生け花って奥が深いのね。萌はやっぱり花に生きる人なのかもしれないわよ」

何気なく言った一言だったのに、萌はその言葉に反応してか頬赤らめ私から目を逸らす。

お料理を注文していると、意外にも萌がお酒に強いことを知り嬉しくなった。

日本酒も飲めるというので、高知の原酒を頼んでみる。

「見た目と違うって萌みたいな人のこと言うんだろうね。私なんか見たまんま酒豪だけど」

「そんな風に見えますか?」

萌は小さな目をくるくると動かして恥ずかしそうに笑った。