今、彼女に伝えなければ本当に二人は終わってしまう。

私は大きく息を吸い込んでゆっくりと吐き出すと意を決して言った。

「二人とも自分の気持ちをねじ曲げて忘れようとしたのに忘れられなかった相手なんでしょう?」

彼女の背中に手のひらを当て優しく擦る。

「昨日は美由紀が痛々しくて言えなかったけれど、竹部さんは今集中治療室にいる。命に別状はないけれど重症なの。あなたの担当の看護師が、美由紀が助手席でこれだけ軽傷だったのは運転席にいた竹部さんが必死で美由紀を守ったからだって言ってたわ。命を張ってでも守りたかったのが美由紀だったのよ」

美由紀の瞳が揺れている。
赤く腫れた目に溢れ出した涙を見つめながら続けた。

「私のことを気にしてるなら本当に大丈夫なの。だって私はもうずっと前から翔のことが好きだった。自分の気持ちにもっと早く気付いて竹部さんにも伝えていたらこんなことにもならなかったのかもしれない。ごめんね、美由紀。だから美由紀には竹部さんと必ず幸せになってもらいたいの……」

一気に言い終えた後、絶対泣きたくなかったのに私の目頭から熱いものが込み上げてきた。

「大さんは……集中治療室にいるの?」

私は流れ落ちた涙を手の甲で拭い頷く。

「どうしてそんなこと……どうして私なんか守ったの?あの人はこれから大事な時なのに」

美由紀は両手で顔を覆い、肩を震わせて泣いた。

「会いたい……大さんに今すぐ会いたい」

私は震える彼女の肩を抱きしめる。

「うん、それでいいのよ。もう自分の気持ちに嘘ついちゃダメ」

今だから美由紀の気持ちが痛いほどわかる。

相手を思い過ぎて素直になることが恐ろしいと思うとき。

そして何より愛する人の痛みは自分以上に胸に突き刺さるってこと。

私はベッドサイドにあった彼女のスリッパを足元に置き言った。

「竹部さんに会いに行こう」

ガラガラ……

美由紀がスリッパに足を通した時、ふいに部屋の扉が音を立てて開く。

二人で扉の方に顔を向けると、そこに立っていたのは白衣を着た翔だった。

病院で勤務中の彼の姿を見たのは初めてだけれど、長身の彼が身に着けた濃紺のTシャツの上にラフに白衣を羽織る姿はあまりにも美しくて思わず息を呑む。

言葉を失って見つめている私に翔が少し声色を強めて言った。

「おい、患者を勝手にどこに連れて行こうとしてるんだ?今日までは神田さんは絶対安静だぞ」