朝のグランドに、荒木の姿を見つける。

「荒木荒木荒木荒木!!」

荒木が面倒くさそうな顔をする。

「なんだよ。」
「できた!」
「何が」
「彼女ができた!」

荒木の顔が変わる。
肩をガシッと捕まえてきた。

「誰。どっち。どっち。」

どっちって言うのは、矢野美織か沙和かって意味だろう。

「沙和!前山沙和!」

俺は声を張る。

「・・・まじか!」

荒木が2mくらい後退りする。

「前山さん、お前みたいなバカが好きなんだ・・・」
「おい。」

背中を叩くけど、「好き」とは言われてない。

そこへ、後藤と松崎と五反田も合流。

「なんか、前山って聞こえたんだけど。」

沙和と同じクラスの松崎が言う。
荒木がニヤニヤして3人を集めた。

「平良、前山さんと付き合うことになったらしい!」

小声のつもりなのかもしれないけど、普通に声が漏れてる。

みんなが俺を見る。

「うぇーーーーい。」

ハイタッチ。

「まじかー、平良も童貞卒業かー。」
「しかも相手、前山沙和って羨ましいよな。」
「前山さんエロいよね。」

こいつらすげえ言いたい放題。

「おい、俺の彼女。俺の彼女。」

そう言う俺をみんなが冷めた目で見る。

「急に彼氏ヅラしてきた。」
「矢野美織からも告白されてるしよー。」

後藤の一言に、松崎と五反田が「ええ!?」と驚いた目で俺を見てきた。

「昨日、矢野美織から告白されたんだってさ。」
「お前、矢野美織振って前山さんと付き合うって・・・運使い果たしたな。」
「なんで平良ってバカなのにモテるんだろうな。」
「顔だろ、顔。」

五反田が舐めるように俺を上から下まで見る。

「なんだよ。」
「俺にはゴリラにしか見えねえ。」

思わずブハッと自分でも笑ってしまう。

「うるせえよ。」

そこへ3年の先輩たちが集まってきた。
朝練が始まる。

俺らは急に静かになった。