気付いたら、風呂場から出ていた。
部屋に戻るしかない。

答えは結局出なかった。

階段を上って部屋に入る。
ドアを開けると、沙和が本棚からこっちに顔を向けた。

「早かったね。」

沙和が言う。

「うん、ザッと洗っただけだから。」

俺はいつも通りベッドに座りながら頭を拭く。

どうしよう、ムードの作り方が分からねえ。

沙和が本棚の前から移動しようとしたのか、体が小学校の卒アルにぶつかった。

あ・・・と思った時にはもう遅い。

卒アルが本棚から落ちる、と同時に見覚えのある小さな箱も一緒にカタッと床に落ちた。

1回戦の日に買ったコンドームだった。

沙和が足元に落ちたそいつに視線を落とす。

急に静まり返る空間。

俺は思考停止。
口だけが勝手に動き始める。

「そ、それは・・・男としてのマナーだから買っただけで・・・。」

男として、男として、男として・・・

それ以上の言い訳が見つからない。

っていうか、普通に考えて沙和とやりたくて買ったと誰もが思うだろう。
まずい。

怖くて沙和の顔を見れない。
俺が目を泳がせてると、いつもの調子で沙和が答えた。

「あ、うん。そうだよね。」

そしてコンドームの箱をさくっと手に取って元あった場所に戻した。

え!?
めっちゃ普通!

すげえ慣れてる感じ。

五反田の「経験豊富」という言葉が今初めて沙和に重なる。

俺のこのパニックぶりと雲泥の差。

すごい普通だったぞ・・・
こいつ、多分実物を手にしたの初めてじゃないな・・・

沙和は表情ひとつ変えずにこっちを見た。

よし、沙和がそんなに普通なら俺も気にしてないぞ。
コンドームを流せ流せ。
流れを変えるぞ。