反射的に叫んでいた。

沙和が少し止まって周りを見る。
でも俺に気付かない。
ダメか。

俺は前方に流れて行く人を掻き分けるようにして遮る。

「沙和!」

沙和が不思議そうな顔をしてこっちを見た。
目がバッチリと合った。

良かった。

「え、なんで・・・」

沙和が驚いたような様子で言う。
なんでって・・・。

「沙和ん家行ったら、おばさんが塾のみんなと花火大会行ったって・・・」

めちゃくちゃ息が切れる。

「俺だろ。」
「えっ?」
「なんで塾の奴らなんだよ、俺だろ。」

ほとんど脳で考える間もなく口から出てきた。

ずっと思ってた言葉だ。

「でも、平良・・・」

沙和が言いかけるのを遮っていた。

「俺には沙和しかいねえよ、花火を一緒に観たい人なんて。」

沙和は困った顔をしている。
俺は悪いことしてんのかな。

田尻のこと好きになってる沙和を困らせてるのかもしれない。
最後の悪あがきかもしれない。

「でも、平良、今日練習試合だって・・・」

え・・・?

ふと、20日の映画を約束した夜を思い出した。
そういえばあの時、さりげなく今日の予定聞かれてたかもしれない。
そうだった気がする。
それを練習試合で断っていた。

花火大会のことだったのか。
なんだよ、花火大会って言えよ。
気付かねえよ。

「バカか。夜まで練習試合でかからねえよ。」

つい口調が荒くなってしまった。
沙和が俯く。

今日、急いで帰る準備をしてた荒木や五反田の姿を思い出した。
みんな彼女との約束のために急いでた。

なんだよ。

そうだよな。
急ぐよな。
好きな人との約束だったら間に合わせるよな。

「好きな人との花火大会だったら、何が何でも来るに決まってんだろ。沙和と来れるなら、何が何でも間に合わせるよ。」

沙和が俺の顔を見る。