た、た、田尻、くん?

ハッと沙和が俺の顔を見てきた。

「誰?」

つい聞いてしまった。

「夏期講習で会った東高の人なんだけど、数学聞いてたんだよね。」

一瞬で心臓をズタズタに切り裂かれたような気がした。

超進学校の男に数学を聞いていた。

それ以前に、仮にも俺と付き合っていたのに、夏期講習で会った男と連絡を取り合っていた。

え?
なんで?
なんでなんでなんで?

やばい、すげえ胸がざわざわする・・・

は?
なんで?

俺と付き合ってんじゃん。
今まで数学なら俺が教えてきたじゃん。

頭がゴジャゴジャになる。

ダメだ、スルーできない。

「俺いるじゃん。」

言ってしまった・・・。

「うん、でも平良は日中部活だから・・・。」

沙和が、「自分は悪くない」というような口調で答える。

「夜こうやってご飯食ってる時に聞けばいいじゃん。」
「うん、そう、そう。だから今日は平良に聞こうと思って。」

沙和の言葉に引っかかりを覚えた。

今日「は」?
今までは「田尻くん」に聞いてたのかよ。

「今までそいつに聞いてたの?」
「え?」

沙和が少し固まった。

そして小さく「ちょっとだけ・・・。」と言って俯く。