「沙和、今日どうしたんだよ。」

つい心細い声がそのまま漏れた。

「え・・・どうしたって・・・?」
「朝から体調悪かったのかよ。」
「いや、終業式の途中で急に・・・でもたまにあって。朝ごはんちゃんと食べてこなかったから。」
「ちゃんと食えよ。」

ああ、沙和を抱きしめたい。
今にも消えてしまいそう。
倒れるなよ、まったく。

「なんで平良は・・・」

沙和が消えそうな声で話し出した。

「なんで平良は普通なの?」
「は?」
「あんなことしてなんで普通でいられるの?」

あんなこと・・・?

ん?

俺は脳内で巻き戻しがかかる。
保健室、終業式、登校、朝、昨日の夜。

昨日の夜だ。

「あんなことって、昨日の?」

沙和が頷く。

デジャヴかと思った。
これは、沙和は、上杉達也状態になったのか?もしかして。

もしかして、キスをして何も喉を通らなかったのか?

じゃあハイテンションでいつも以上にご飯を食べた俺は、そう、浅倉南だ。

そう気付いた途端、浅倉南が脳内で鮮明に動き出す。

「沙和だからだよ。」

沙和が「はあ?」とでも言うような顔をする。
俺はめげずに続ける。

初めてのキスが沙和だから、俺は何事もなく俺でいられる。

「沙和だから、普通なんだよ。べつに何ともないし。」

きっと、沙和はタッチを思い出してくれるだろう。
そして俺の初恋の相手が自分であることに気付く。

むしろ気付いてくれ!

しかし俺の期待は見事に裏切られた。