「彼女。」

自分で言ったくせに反応が怖くて、すぐに米に逃げた。

「ん?」

ほらきた。
半ば怒ってる。
真顔だよ、真顔。
俺、負けるな。

「彼女。」

言うだけ言って、また米に逃げる俺。

「どういうこと?何が?」

綺麗な顔なのに、眉間にシワが寄る。
言い方、なんで怒ってるんだよ。
怖いよ。

「俺の彼女。」

3度目。

「え、付き合うの?」

嫌そうに聞いてきた・・・。

「嫌ならフリでいいよ。」
「え・・・。」

うわ、嫌そう。
すげえ嫌そう。

これ、振られるな?
今告白した言い訳をするしかない。
クッション材料ってやつ。

「告白されたんだけど、振る理由見つからなくてさ。」

俺の急な一言に、沙和の眉間のシワが消えた。

「初めて聞いた、誰から?」
「言わない。」
「なんで、教えてよ。」

グイと身を乗り出してきた。

まずい、俺の告白話に興味津々だ。
矢野美織って言ったら、絶対勝手に盛り上がるパターンだ。
「いいじゃん、いいじゃん、付き合っちゃいなよ。」って言うのが見え見えなんだよ、くそう。

「いや、彼女のプライバシーだろうが。」

ナイス、俺。
見事な俺の切り返しに「まあ、そうだね。」と沙和のテンションが一気に下がっていったようだ。

「今日告白されて、別にいいんだけど、別にいいのかな?俺、この子のこと好きになれんのかな?と思って。」

何言ってんだ、俺。

「振ればいいじゃん。」

ですよねー。
そうなるよねー。

「断ったら『友達からでいいから。』って言われた。」

仕方なくネギマを頬張る。
うっま。
タレがうまいんだよな、ここ。

・・・

ん?
あれ?
会話止まった?

沙和はまた宿題に戻ってる。
すっげードライな女。

「振ればいいじゃん」で沙和の中で解決したってことか。

まあこういうとこなんだよなー、好きなとこ。

しかしまずい。
俺の勇気が、俺の今までの人生をかけた勇気が、サラッと水に流される。