「他にいたら、お前と付き合わねえよ。」

少しの沈黙。

「え、なに、その答え。」

沙和が眉間にしわを寄せて追いかけてきた。

え、逆に分かんないのかよ、今ので。
沙和が好きだから沙和と付き合ってるって意味なんだけど。

小道を挟んですぐ沙和の家。
俺は店のドアのすぐ前に立つ。

なんか、もう空振りばっか。

ため息をつく俺を見て、沙和が口を開いた。

「ねえ、これ『付き合ってる』って言うの?いや、だって、何も変わらないし、恋人っぽい感じじゃないし。」

沙和の呆れたような、冷めたような、表情から伝わってくる「つまらない」というメッセージ。

これは完全に、「別れよう」という誘いだ。

俺の心が震える。

「別れたいってこと?」

自分から絶対言いたくなかったけど、口から出た。
こんなんで別れるものなんだな。

付き合うってなんなんだろ。

そんなことを思っていたら、沙和が小さく答える。

「そっちじゃない・・・」

ん?
そっちじゃない?

「ん?どういうこと?」
「別れたいとかじゃない・・・」
「ちょっとよく分からないんだけど・・・」

沙和の「別れたいとかじゃない」発言に頭が追いつかない。

女心って難しい。

遡ってみよう。

・沙和は俺のこと好きじゃない
・これって「付き合ってる」って言うの?
・別れたいわけじゃない

何がしたいんだ?

しばし思考がグルグルする。

そもそも俺たちはなんで付き合い始めたかと言うと、俺が沙和の宿題をやってあげた代わりに「彼女になって」とお願いしたから。

沙和にとっては、「付き合う=何かやってもらう」という関係が成り立ってるのか?

もしかしたら、もうとっくに宿題の効能は切れてて、付き合うのももう更新時期?

また何か沙和にしないと、更新切れ?

こうやって俺は、付き合ってる間は沙和に利用され続けることになっているんじゃないか!?