あっという間に22時になってしまった。
こんなに長居するのは久しぶりだ。

沙和の方から「まだ?」と言ってきた。

「いく、行くか・・・」

やっと切り出すことができた。
情けない。

部屋に女子を連れてくるなんて久しぶり過ぎて緊張半端ない。

毎日会ってる沙和でも緊張する。
沙和だからなのか?
分からない。

部屋の電気をつけると、部活のカバンと本棚と机とベッドしかない寂しげな部屋が照らされる。

脳内シミュレーション通りにカバンから帽子を取り出す。

机のペン立ての中にあるマジック。

「はい。」

沙和の手の上に、帽子とマジックを乗せた。

沙和はやる気なさそうに「はーい。」と言って書き始める。

そして数秒後にすぐ俺の方を振り向いた。

「はい、書いたよ。」

沙和が帽子とペンを返してきた。

あ、もう二人の時間が終わる。
せっかく部屋へ呼んだのに、終わる。
あまりにも短い。
あっけなさすぎる。

そう感じた。

俺は帽子ではなく、沙和の腕を掴んでいた。
その勢いでグッと沙和を自分の方へ引き寄せる。

沙和が驚いた顔をしている。

ここで手を出したら、俺は婦女暴行になるだろうか。

そんな胸のざわつきを感じる。

一度掴んでしまった沙和の腕。
どうしよう。
俺は一体何をしようとしてるんだろう。

ただ、このまま帰すのが嫌だった。

そんな俺の口から出た言葉は

「沙和、好きなやついる?」

だった。

本当に聞きたかったのは、「俺のことをどう思ってるのか」なのに、勇気が出なくて曖昧な質問をしてしまった。

どっちに転んでも嫌だけど、できれば好きなやつが俺だったらいいーーーー。