「あのさ!」

つい呼び止めてしまった。

やだ、俺は沙和から何かが欲しい!
でないと、試合に行けない!

「なんか書くのある?」

苦し紛れの提案・・・。

「え?」

沙和のいつもの面倒そうな顔。

「書くやつ。ペン。」
「ボールペンならあるけど。」

沙和が少し困ったような顔で答える。

よし、それでいい!

俺は思い切って被っていた野球帽を脱ぐ。

「書いてよ。」

お願いします!
書いてください!

脳内に生きてるミニチュア俺が100人くらい頭を下げてお願いする。

「え・・・」

沙和が野球帽の裏の汚さに若干引いてる気がする。
少し固まって動かない。
絶句って感じ・・・。

「ここなら試合中見れるし。」

さりげなく重要なポイントを言う。

試合中も沙和のメッセージが見たいです!

しかし、絶句してる沙和の耳には全く届いてない様子だ。
また俺の脳内のミニチュア俺が100人くらい頭を下げる。

「私が書いていいの、ここ。」

何とも心が読み取れない口調で言ってきた。
遠慮がちって言うよりかは、遠回しに書きたくない風にも聞こえる。

「うん。」

俺がそう言うと、沙和は「時間ないんだけど」と言わんばかりに体育館の壁の時計をチラッと確認して、急ぐように書く。

書くというより「書き殴る」という感じだ。

ボールペンで書きにくいのか、イライラしてるようにも見える。

ああ、なんか無理なこと言ってごめんなさい。

結果、すごく雑な「ガンバレ」というメッセージが薄ーく書かれた。

「はい。」と帽子を返される。

ちゃんと見ると、より雑。

「きったねー。」

つい照れ隠しで余計な一言を言ってしまう。

ああ、嬉しい。
書いてもらって良かった。

「ありがと。頑張るわ。」

ああ、幸せでいっぱいだ。

胸いっぱいだ。

時計を見る。
時間がない。

ありがとう。

沙和がどんな顔してるかは、怖いから見ない。

でも、大好きだ。

勇気を出してお願いして良かったー!

俺は「じゃ」と言って今にも空まで飛んで行きそうなフワフワした足で体育館を出た。