逃げるようにグランドに駆け込む。
後藤と荒木の顔を見つけた途端に、飛び込んだ。

「助けて助けて助けて助けて。」
「どうした、どうした。」
「矢野美織に告白された・・・」

俺の告白に2人は顔を見合わせる。

「うぇーい。」

そしてなぜか俺とハイタッチ。

「どうしよう。」
「どうしようって何が。」
「彼女いないなら友達からって言われた。」

荒木が「自慢かよ。」と軽く肩を殴ってきた。

「ええー」

俺が渋る。

「何が問題なのかさっぱりわからない。」

後藤が言う。

「あの女、面倒臭そう。」

俺が言うと、やっと2人が納得の表情をした。

「乳臭いよな。」

荒木が言う。

「そう、乳臭い。」
「お前、付き合ったら童貞捨てられるぞ。」
「ああ、3日くらいで捨てられるとは思う。」
「付き合えばいいじゃん。」

2人は冷たい。

「嫌なんだよ、嫌なんだよ、俺は。」
「なんだよ、面倒くせえな。」

俺を置いて2人は進んでいく。

「ねーえー」

後ろから2人の肩に腕を回して間に割り込む。

「重てえよ。」
「前山さんと付き合えばいいじゃん。」

後藤が面倒臭そうに俺の腕を振り払って言った。

「はあ?」
「そんなに矢野美織が苦手だったら、明日『前山さんと付き合ってます』って言っちゃえばいいじゃん、嘘でも。」

嘘でもって・・・

荒木も俺の肩に腕を回す。

「今度はお前が前山さんに告白する番じゃね?」

・・・

荒木が俺の目をじっくりと見つめてくる。

「はあ?できると思うか?俺が?沙和に?むりむりむりむり。」

俺が全力で首を横に振るのを見ると、2人は冷ややかな顔をしてため息を吐いた。

「だってさ、だってさ、振られたらどうすんの?俺、ご飯食いに行けないじゃん。あんなに定食好きアピールして毎晩食いに行ってるのに、一発で食いに行けなくなるし、会ったら気まずい。今までの関係が終わる。むりむりむりむり・・・。」

荒木が俺を振り返る。

「おーい、3年もう集まってるぞ。」

県予選前の先輩たちのピリピリした空気感。
分かってるけど、ちょっと今、気持ちの整理がつきません。
ごめんなさい、先輩。

俺は仕方なく頭を切り替えて走り出した。