昼休み。

とうとう、決別の時が来た。
矢野美織を振りに行く。

勇気を出せ、俺。

荒木が最終確認をしてきた。

「本当にそれで後悔しないんだな?」

俺はコクリと頷く。

「俺には、沙和がいるんだ。」
「よし、行ってこい。」

荒木は俺の背中を思いっきり強く押した。

痛えよ。

俺は矢野美織がいる2組に向かった。

教室のドアのところで立ち止まって中を覗く。
と、すぐに教室のど真ん中でグループでお弁当を食べてる矢野美織とバッチリ目が合った。

少し驚いたような顔をして、すぐこっちに向かって小走りで来る。

第2ボタンも開けた解放的な胸元。
胸が揺れる。

わずかに下着透けてねえか?

見るんじゃない、俺。

「ごめん、ちょっといい?」

俺が言うと、「うん。」と少し緊張した顔をして後をついてきた。

屋上に繋がる階段の一番上の踊り場。
ここなら誰も来ない。

俺は勇気を出して口を開いた。

「やっぱり、ごめん。昨日のことだけど、俺、前山沙和と付き合うことになった。」

深めに頭を下げた。

「あ、それなんだけどさ。」

矢野美織が答えた。

それなんだけどさ?

「私も、平良くんのことよく分からないし、付き合ってからハズレだったなーって思うのは嫌だから、やっぱ違うかもって昨日思った。」

そういう顔が、すげえ笑顔なんだけど。

「だから、全然大丈夫。気にしないで。」

すごくキラキラした笑顔で俺の肩をポンと軽く叩いてくる。

固まる俺。

「用ってそれだけだよね?」
「ああ、うん。」
「じゃ、私戻るから。」

彼女は口角を上げて、とても良い笑顔のまま「じゃ」と言った。
そしてそのまま階段を駆け下りて行く。

あれ?
なんか俺、振られた?

いやいや、違う違う。

呆気にとられる俺。

フラフラしながら教室に戻ると、わざわざ荒木がドアのところまで走ってきた。

「どうだった?」

すごく爛々とした瞳。
日に焼けてるから、やたらと歯が白く見える。

「どうだったっていうか、俺、すげーあの女嫌い。」
「はあ?」

席に着く。

「なんかさ、『平良くんのことよく分からないし、付き合ってからハズレだったなーって思うのは嫌』って言われたんだけど。」

俺は多少真似を取り入れながら愚痴る。

荒木も少し引いたような口調で「うわ・・・」と反応した。

「あんたが言ってきたんでしょって、俺に。なのに、なんでそんな言われ方しないといけないんですか。」

自分で言ってる間も、腹わたが煮えくり返りそうだ。

「ああいう女、自分が一番かわいいんだよな。」
「まあ、平良、落ち着けって。」

荒木が肩に手を置く。

俺も頑張って心を落ち着かせる。

深呼吸。

「あー、あんな女と付き合わなくて良かった。それこそハズレだよ。こっちこそハズレだ。くそ・・・。」

俺の荒ぶる口調に、荒木が笑う。

「まあ、学年一モテるから、振られるなんて絶対許せなかったんだろうな。」
「それ。」

俺は大きなため息をついた。