ALWAYSの前に差し掛かると、優しい明かりが道路に漏れ出している。
ほっと息を吐きだすと、やっと呼吸ができたようなそんな気持ちになった。
カラン、と扉に取り付けられたベルが鳴る。
その音に反応するように、赤いエプロンをつけた後ろ姿が振り返った。
『いらっしゃい…
本郷さん!』
彼はまるで主人を出迎える愛犬のごとくみるみる笑顔になった。
「こんばんは、春田くん」
そう挨拶を返すと、さらに口角を上げて彼は微笑んだ。
お弁当の配達で毎日顔を合わせてはいるものの、目が合うと会釈をするくらいなので
こうして言葉を交わすのはあの雨の日以来だった。
『本郷さん、今日は食べていきませんか?』
おかずを選んでいると、カウンター越しに彼が言う。
「…うん、そうする」
外で一人で食事をするのは苦手だ。
でもそう答えたのは今すぐ家に帰ってもきっと、ロクなことを思い出さないから。
そして、もうひとつは彼の作る優しい空間に浸っていたかった。
彼に対する嫉妬にも似た気持ちは、いつの間にか憧れに近いものになっていた。