『ん、どうしたの?』
「さっきの事…怒ってる?
本屋での事」
『いいえ』
彼はまっすぐこちらを見つめたまま即答する。
その様子から、もちろんそれが本心でない事くらいわかっている。
「…どうして、言わないの?
私に…」
一度言葉を飲み込むと、一息置いて再び口を開いた。
「私になんて…踏み込まれたくない?」
少しの沈黙の後、彼はこちらへ歩み寄ると革靴を脱ぎながら答えた。
『そんな事思っていません』
そのまま私のすぐ横をすり抜けるように歩を進めた彼の腕を咄嗟に捕まえた。
「どうして何も言わないの!」
高ぶる感情に、思わず語気が強まる。
その時、振り返った彼の手が私の腕を掴むと、強い力で廊下の壁へ押し付けた。

