前を歩く彼の背中を見つめながらそんな事を考えていると、その肩越しに駅の出口の少し先にある本屋の明かりが見えた。
これから、これが私の毎日になるんだ。
そう思うとどこか不思議な気持ちになる。
ふわふわとしたその感情は、私の頬を撫でる風の感触やその香りさえも美しくて尊いものに変えていく。
そして、いつか彼と一緒に人生を歩む日が来るのかもしれない。
抑えきれなくなったその感情に、思わずその背中を引き留めるように彼の手に触れる。
少し驚いたように彼はこちらを振り返ると、私に合わせるように少しだけ歩を緩めた。
隣に並んだ彼の手を握り直すと、意を決して彼を見上げる。
「駄目、ですか?」
『…いいえ』
言葉は少なくとも、私の手を心地よい力で握り返してくるその手がどれだけ私を想ってくれるのかを物語っているような気がした。

