「ちょっと待った!」

思わず席から立ち上がると、受話器の向こうの彼を勢い良く制止する。

「今日はちょっと彼女と先約があって…ごめん」

そう一息で言い切ると再び静かに席に腰を下ろして、静まり返った受話器の向こう側に意識を集中させた。


『……まじで!?!?!?

何年ぶりだよ!!!いやー、すっかり枯れたかと思ってたわ』

彼はそう叫んだ後、ケタケタと電話の向こうで笑っている。
そういう反応になる事はある程度覚悟していたし、だからこそこのカミングアウトに尻込みをした。

というのも俺は自分の店を持つ為に大学を辞めた後、女性関連とは距離をおいた生活をしてきた。

正確には在学中に付き合っていた女性がいたが、修行を初めてからというもの徐々に疎遠になり、別れた。

その後も何度か友達に合コンに誘われて参加をしてみたものの、どうやら俺はそういう“場”が苦手らしくただ周りに合わせて愛想笑いをしただけで終わった。