「手…、洗わなきゃ」
気を紛らわすようにそう呟くと、鞄から取り出したハンカチを手に洗面台へ向かう。
手を拭きながら再びリビングへと戻ると、じっとその扉を見つめる。
いつもならきっとこんなことしないのだろう。
けれど酔いのせいなのか、彼の一部を覗いてみたいという欲求にただ駆られるまま
吸い寄せられていくように、私の足はその扉へと向かった。
真鍮で出来たドアノブに手をかけると、ひんやりとした温度が手に伝わる。
ゆっくりと扉を開くと、部屋の中がリビングから差し込む明かりにぼんやりと照らされた。
その部屋は寝室にしては少し大きい、リビングと同じ広さくらいの部屋だった。
けれど部屋の中へ足を踏み入れてみると、リビングに置いてあるようなアンティーク雑貨は殆ど無く、それどころか物がほとんどないことに気付く。
背の低い大きなベッド。
年季の入った立派な本棚に、革製のリクライニングソファ。
壁一面の大きなウォークインクローゼット。
パイプで出来たシンプルな作りのハンガーラックにはスーツが一着、丁寧に掛けられている。

