「…何言ってんの、馬鹿ね」
気付けば、口から自然に言葉が零れていた。
「いいの?嫌いになって。本当に?」
『……イヤ…』
その時、彼女の目から大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちた。
『…イヤです…っ!!嫌いにならないでほしい…っ』
「…なるわけないじゃない」
なれるわけないじゃない。
心の中でそう呟くと、泣き崩れた彼女の小さな背中に触れた。
手をゆっくりと動かしてその背中をさすると、彼女の嗚咽は更に激しくなった。
そういえば彼女が入社したての頃は、泣いてばかりいたことを思い出す。
その時もこうしてその背中をさすっていた。
そんな彼女も今ではすっかり強く逞しくなったと思っていたけれど
震わせたその華奢な肩は、今にも折れてしまいそうなほど弱弱しいものだった。
泣きじゃくる彼女の手に優しく触れると、その手がまるで甘える子供のように私の手をぎゅっと強く握った。
「ねぇ理央」
「いつか私にまた好きな人が出来たら、その時は話聞いてよね」
彼女に言った、その言葉は紛れもない本心で
こんなにも私の為に思い悩んでくれる人がいるならば、報われない私の片思いも本望だろうと少しだけ思えた。

