その沈黙に、何が不手際でもあったのかと不安がこみ上げてきた。


その時。

『柴犬…?』

誰かが発したであろう声が、部屋の中にぽつりと落ちた。
すると、目の前に立つ女性が勢いよく吹き出す。

『あははは!わかります!?

そうなんですよぉ、ちょっと柴犬っぽいですよね!

癒し系っていうか!』

彼女の笑顔にまるでぱっと花が咲いたように部屋の雰囲気が和らいだ。

『お弁当屋さんの春田くんです!』

その笑顔に背中を押されて、ぐっと背筋を伸ばした。

「春田と申します。

これからよろしくお願いしますね!」


その時。

部屋の真ん中、コップが並んだトレーを手にしている女性とばちっと目が合った。

どこか不思議なオーラを放つ彼女に一瞬目を奪われる。

綺麗な黒髪に小柄で華奢な体。
そして何もかもを見透かされそうな澄んだ瞳。

すぐさま我に返り、咄嗟に笑顔を取り繕う。
そんな俺に、彼女は表情ひとつ変えずに前を向き直った。