見慣れた彼のマンションを見上げると、
まるで足枷でもついているかのように足取りが重くなる。
私達の関係は、不思議なものだった。
付き合っているわけでも、友人でもない。
端から見れば、歪で不道徳なものだったのかもれない。
けれど彼の気持ちを知った今、この関係を続けるわけにはいかない。
この歪なの関係の中で、彼の気持ちだけが唯一の本物だった。
それをこれ以上弄んで、汚すことだけはしてはいけない。
私が、ちゃんと終わりにしないと。
足を踏み出すたび、めげそうになる心を何度も何度も奮い立たせた。
『…どうぞ、入って』
彼の部屋の扉が開くと、彼はそう一言だけ言った。
恐らく彼も何かを察しているのだろう、その声は低く沈んでいた。
彼に促され、部屋へ足を踏み入れると彼に従ってソファへ腰を下ろす。
重くのしかかるような沈黙に、
口を開くのを躊躇っていると、彼のつぶやくような声がそれを破った。

