『基くん!帰るよー?』
昭香さんが室長へ伺うように言うと、彼はやっとPCから顔を上げた。
『皆さん、今日は先に帰ってください。
ちょっと僕は残っていくので』
『はーい!基くんも、あんま根詰めないようにね!』
そう言うと昭香さんはバックを手に取った。
「…あの、私手伝いましょうか?」
昭香さんの号令がかかる前に切り出す。
もちろん彼の仕事の手伝いをする名目だけれど、何とか彼の誤解を解くチャンスが欲しい。
昭香さんがそんなことを知ったら私に失望するかもしれないけれど。
昭香さんだけじゃない。
仕事にプライベートを持ち込まないというのは、社会人の基本だ。
でもたった10秒でいい。
二人で話をしたい。
念じるように見つめていると、彼は目が合うと同時に優しく微笑んだ。

