頬を撫でる優しい夜風が気持ちいい。
週末だというのにホームで電車を待つ人も疎らだ。
アナウンスが流れ、電車が入ってくる。
電車に乗り込み、窓の外を見ると街頭がちらほら見えた。
街頭が少ないせいで、まるでそれが鏡のように私の姿を映し出す。
そこに映った私は原型はなんとか留めているものの、
熱されたチョコレートのように今にも溶け出しそうだった。
それからどれくらい時間が経っただろうか。
いつの間にか電車の中の人も増え、
電車の外の景色はキラキラした街頭や看板や店に変わっていた。
今頃二人は何をしているんだろう。
私はここで一人、何をしているんだろう。
こうして比べてみると、何という差だ。
でも私は、理央にはなれない。
”『日比野』”
彼が好きなのは私じゃない、理央なんだ。
理央を見つめる勇太の瞳を見た瞬間、それを突き付けられたような気がした。
本当は、私の名を呼んでほしかった。
忘れたはずのあの波がまた、やってくる。

