その指をじっと見つめる。
少しだけページをめくりにくそうにする仕草に、ふと思い立つ。

鞄からアルミのチューブを取り出す。

「あの、これハンドクリームです。

べたつかないので、どうぞ」

そう言ってそれを差し出すと、彼は一瞬驚いた顔をしてニコリと笑った。


『…じゃあ塗ってください』

そう言って本をテーブルの上に置くと、向かい合うように座りなおして
右手の甲をこちらに向けて差し出す。

「え…」

予想もしなかった展開に、驚きで固まってしまう。

それでも彼はその笑顔を崩さない。

少し震える手で自分の手にハンドクリームを出すと、
手のひらを擦り合わせるようにしてクリームを馴染ませる。

恐る恐る彼の手に触れると、体中に緊張が走った。

『いい香りがしますね』

「カモミール…です」