「楓…」

でも。

いざその名前を口にすると、心に沸き上がった違和感に気が付く。

ああ、私は楓を通して”勇太”に会いに来たんだ。

だから目の前にいる“楓”を心が受け入れることを拒否している。


『ん、ありがと』

そう微笑んだ彼はきっと
私のこんなずるい気持ちも全て見透かしている。

そんな気がして心の隅に少しだけ残った良心が痛んだ。


次の言葉が見つけられずにいると、心地いい力で手が引かれた。

視界が揺らぐと、私を受け止める香り。


『特に意味なんてないよ。

…可愛い子に名前呼ばれると、』

彼の声が優しく耳元で囁く。


『興奮するだけ』


そう言うと、まるで(せき)を切ったように私の首筋に唇を這わせた。