「桃羽ちゃーん!
一緒に帰ろっか?
香代から聞いてたよね?」

放課後になるとクラスの違うはずの宮下くんが私の机の前まで来ていた。

「う、うん。
香代からお昼に聞いたよ。
じゃ、じゃあ、帰ろっか。」

いつも雅人くんと一緒にいた宮下くんだけど話したのは今が初めて。

悪い人には見えないけど、緊張するな…。

私は、母に似たと言われるけれど男の人を好きになったこともお付き合いしたこともない。
パパと顔も知らない母の話を聞くと、好きが分からなくなった。
いや、知りたくもなかったのだ。

「──でさーって、桃羽ちゃん俺の話聞いてる?」
「…え?あ、うん!
ちゃんと聞いてるよ!」

今頃香代ちゃんどうなったかなーとか考えていると宮下くんから急に話しかけられてビックリしてしまった。

「いやー、なんかさ、桃羽ちゃんって香代から聞いてた感じと全然違うね。
なんかつまんないね。」

急に、つまらないと言われて私は軽くショックを受ける。

「ご、ごめんなさい…!」
「んー、謝んなくていいよ?
その代わりさ、今から俺の事楽しませてくんない?」

宮下くんがそう言って指さした先には“TOUGENKYO”と書かれたネオンの光るホテルだった。

ヤ、ヤバい…。

知識の少ない私でもそのホテルがなんのためのものなのか分かる。

「い、いや、私と宮下くんは、つ、付き合ったりしてないから…その…。」

私は身の危険を感じて後退る。
だけど宮下くんに右手首を掴まれてそれ以上離れられなくなる。

「何言っちゃってんの?
そんなの付き合ってなくてもできるでしょ?
純情ぶってんの?
ホントつまんないね。
まぁ、今から楽しませてくれるんだよね?」

2回目の、つまんないに力が緩む。
母に似たくなくて恋愛に一切の興味を示さないようにしていた私は、つまんない人間になのだと思い知らされる。

「こ、ここで私が宮下くんを楽しませたら…これからも友だちでいてくれますか…?」

私はおずおずと上目遣いで宮下くんを見上げる。

「当たり前。
友だちどころか、彼氏になってあげるよ。」

別に彼氏なんかになってくれなくていい。
友だちじゃなくならないならそれでいい。

「ありがとうございます‪。
…入りましょう。」

私がそう言うと宮下くんは嬉しそうに私の右手を引いてホテルの入口へと足を進めた。

あーあ、私は結局お母さんみたいになるんだ…。
否定してきたけど結局こうなるんだ…。