私は歩いて30秒で帰れる教室まで2分くらいかけて帰るつもりでゆっくり歩いていた。

これからどうしよう…。
やっぱり私といるの嫌だよね…。

俯きとぼとぼ歩く私の目の前に影ができる。

｢邪魔。｣

低く棘のある声がして顔を上げると、そこにはサラサラな黒髪が目に微かにかかり、そのせいでか元々切れ長な目がもっと冷たく見える印象の振川 凌が立っていた。

｢あ、ご、ごめんなさい。｣

私は逃げるように壁によける。
すると振川くんは何も言わず私の横を去っていく。

振川 凌くん。
クラスは一緒だけど話したことはない。
同じクラスの男子とつるむこともなくいつも教科書を読むか何か難しそうな本を読んでいる。
女子からは、

｢自分のこと絶対頭いいって思ってるよね。私達のことなんか石ころとでも思ってるんじゃない？私絶対嫌いなタイプ。｣

と言われて何故か嫌われている。

初めて…声聞いたかも…。

そんなことを考えながら歩いていると教室の前まで来ていて仲良しグループが、ギャハギャハ笑いあっているのが目に入る。

｢あ～、桃羽おっそーい！大きい方でもしてたー？｣

1人が教室の前で突っ立っている私に気づいてそんな冗談を大きな声で言えば、他の2人はまた、ギャハギャハ笑っている。

｢ねぇ、お前ホント邪魔。｣

頭上からまたさっき聞いたばかりの振川くんの声が降ってきて慌てて後ろを振り向く。

｢俺、教室入りたいから。｣

と言って私の肩をそっと掴んで私を横向きに回転させるとスタスタと教室に入っていってしまった。

｢ねぇ、桃羽～。さっき雅人くんからLIMAが来ててねー、放課後一緒に帰ることになったから雅人くんの友だちの宮下くんと帰ってくんなーい？｣

急に仲良しグループの1人の香代から話しかけられる。

｢う、うん！全然いいよ！楽しんでね！｣

私は無理矢理笑顔を作ると何事もなかったかのように3人の座っている席まで走っていった。