入学式から一週間がたち、薫にもよく話す友人ができた。一人は35歳の岸本裕也。地元のスーパーに勤めていたがブラックな環境とパワハラまがいの行為をする上司に見切りをつけて、職業訓練でここに入学してきたそうだ。独身だがバツイチ子持ちの彼女がいるらしい。
知り合い全員から「別れた方がいい」「早く縁を切れ」と言われているそうだ。どんな相手なのか少し興味がある。
もう一人は新卒の山口恭平。オシャレ好きだが身長が低いことをコンプレックスに感じており、「オレがチェスターコートとか着ても似合うわけないしなあ」などとぼやいたりしている。かわいい顔をしているので女子受けはいいようだ。早くも目を付けた女子がしょっちゅう話しかけているが、恭平自体は乗り気じゃないように見える。
彼には障害がある双子の兄がいるそうで、福祉の道を目指す一因になったと話していた。茶髪ツーブロックにしては真面目な奴だ。偏見か。

昼休みに三人で思い思いの食事を摂っていると岸本がメロンパンをかじりながら言った。
「なあ、女子の中で誰が好み?」
(男3人集まるとこの手の話になるよなあ)
「そりゃあやっぱり南さんじゃないですか?」
山口が声を潜めて言う。南沙也加は自己紹介によると24歳で、以前はデパートの美容部員だったそうだ。ナチュラルメイクにパッチリとした目、いつも笑顔で話すので男性陣からの人気は高い。
「榊君はどう思う?」
岸本が薫に話を振ってきた。
「そうですねえ、南さんが可愛いのは誰もが認めるところでしょうね。あと見た目だけで判断するということなら、庄司さんは十分美人と言えるし下田さんもいいんじゃないですか。ああ、坂木さんも美人だと思うけどなあ」
「確かに庄司さんは美人だと思うけど50台だろ?さすがにね」
岸本が苦笑する。庄司美佐子(55)、2男1女の母。若いころの美貌が偲ばれるが、今の話題には違うだろう、としか言いようがない。

「岸本さん的には下田さんなんていいんじゃないですか?年も近いんでしょ」
山口が話を向けると
「あの子、知り合ってまだ一週間なのになんだか毒舌というかオレに対して当たりがキツイんだよなあ」
「ああ、鞭とか持たせたら似合いそうですもんね」
ドロ〇ジョみたいな感じか。

男三人で勝手な品評会をしていると、坂木梓が同年代の榎本という女の子と一緒に食事をしているのが目に入った。笑顔で会話している。
(ああよかったな、ご飯食べる友達ができたんだ。趣味は会うのかな)
ハードSFをたしなむティーンの女子がはたして日本に何人くらいいるかわからないが、まあ相手の子は読まないだろうなあ。ラノベくらいなら読んでそうだが。

「榊さんの好みのタイプってどんな感じですか?」
と、山口。
「ほんわかしててあまり細かいことを言わない人がいいかな」
ここは適当にごまかしておこう。幸いにも予冷が鳴った。