10分ほど歩いて梓と田代は“ファルコン”というカフェに到着した。入口のガラスドアにどこかで見たような宇宙船のイラストが描かれていたが、店内に大きなサルはいなかった。
「こっちこっち。テーブル席を予約しておいてよかったよ」
中に入ると池崎桜子が二人を手招きしている。店内はほぼ満席のようだった。
「隆太、さっそくアプローチしてんの?」
「違うって、この子がはぐれそうだったから」
桜子の軽口に田代が心外だと言わんばかりに答えた。
「まあまあ、さっきはとりあえず名前だけだったから改めて自己紹介しようよ」
小谷友香がとりなすように提案すると、男子が順番に自分のプロフィールを話し始めた。最後になった田代はN大生だそうだ。梓は、そう言えば薫さんの妹さんもN大に通ってるんだったな、とぼんやり考えていた。

次は女子の番となり最初に美紀が“カレシ募集中で~す”などと愛嬌を振りまいている。そう言えば梓以外、今日はみんな若い女の子らしい服装でやる気を見せている。パンツルックは梓だけだ。
「ハイ次は坂木ちゃんどうぞ」
桜子に促され梓も話し始めた。
「坂木梓です。美紀と同じひまわり福祉専門学校に通ってます。中学高校とソフトボール部でした。趣味は...小説を読むことかな。以上です」
「坂木さんはカレシ募集中じゃないの?」
石黒という小柄でソフトな印象の男が冗談っぽく尋ねた。
「いえ、今はそういうのは...」
「残念だなあ、合コンに参加するってことは少しはそういう気持ちがあるのかと思ったんだけど」
石黒がいかにも失望したように頭を抱えると皆から笑いが起こった。見知らぬ男性たちと会うという事で人見知りの梓はかなり緊張していたのだが、見た目も話し方も皆感じがよくて、少しリラックスできた。

「ねえ今日のメンバーでライングループ作らない?」
一通り食事が終わった後で友香が提案すると、“賛成~”と全員が同意した。グループ名は美紀が“SOS団”と命名した。梓はあえて突っ込まないことにした。
(まさかこの中に宇宙人や超能力者がいたりしないよね)
全員がグループに参加したところで、次はカラオケに行こうということになった。梓は小声で美紀にそろそろ帰りたいと告げたのだが、お願いだから空気を読んでよと懇願され、渋々付き合うことになった。
外に出てふと空を見上げるときれいな鱗雲が目に飛び込んできた。このお祭りが終わると本格的に秋がやってくる。
視線を空から下に戻した梓の前に薫が立っていた。
「や、やあ」