「えっ合コン?」
コンビニのおにぎり(梅カツオ)をほおばっていた梓は、美紀の誘いに一瞬むせそうになった。
「高校の同級生から誘われてたんだけど、女子メンバーが一人足りなくてさ。ここは社会勉強だと思って参加してくれない?」
美紀が手を合わせて梓に頼む。
「でもわたしは...」
「分かってるって、アズちゃんの気持ちは。別に浮気するわけじゃないし、交流関係を広げるいい機会だよ」
「ええ~」
結局梓は美紀に押し切られる形で人生初の合コンに参加することになったのだった。

「なんで今日なのよ!」
人ごみの中で美紀がぼやいた。
N市では10月の三日間、伝統的な秋の大祭が行われ全国から20万人もの観光客が訪れる。かの合コンはその中日に設定されていた。
メンバーは全員で8人。女子は美紀の友人である池崎桜子と小谷友香で、男子は桜子の友人たち4名だ。桜子はN市内の短大生、友香は看護の専門学校に通っているそうだ。
それぞれ簡単に自己紹介を済ませたものの、梓は男子たちの名前を覚えられなかった。皆同じような今どきの髪型とファッション。それなりに身ぎれいだし好感の持てる人たちだとは思うが、初めて薫に会った時のような強い印象は感じられない。

「いや~全員の予定が合う日って今日しかなくて、メンゴメンゴ」
桜子が美紀に謝っている。フェリーターミナル近くの大型ショッピングモールで落ち合った一行は、友香が提案した近くのカフェレストランに向かうところだった。ただショッピングモールのある場所の付近は、たくさんの出店が並ぶ地域で、天気のいい今日は相当な人出で歩くのも困難なほどだった。
皆からはぐれないように何とか後を着いていく梓だったが、一瞬彼らの姿を見失いそうになった時、突然右腕をつかまれた。
「こっちだよ。はぐれないで」
「!!」
びっくりして声も出ない梓がつかんだ手の先を見上げると、紹介された男子の中の一人だった。髪を明るい茶色に染めてセルフレームの眼鏡をかけている。
「驚かせてごめんね、迷子になりそうだったから。オレさっき自己紹介した田代隆太。あの店ならわかるから後ろをついてきて」
田代はすぐに手を放し梓を誘導し始めた。

“ああ驚いた。突然腕なんか掴んで痴漢かと思ったじゃない!”
後を追いながら梓が田代の背中をにらんだが、彼に伝わるはずもなかった。