10月に入り介護福祉科では後期の授業が始まった。その中には福祉系の専門学校らしく、調理実習や被服実習(編み物)、点字に手話といったものまで含まれていた。
そんな10月最初の週末、薫と岸本、琴絵の3人は学校近くの居酒屋“黒松屋”で一杯やっていた。
「カンパ~イ!」
秋らしくなってきたとはいえ昼間はまだまだ暖かく、乾いたのどにビールがとても美味く感じられる。
「いや~オレ編み物なんて生まれて初めてやったよ」
「僕もですよ。ボタン付けとか簡単な裁縫くらいはやるけど、マフラーを編むなんて」
「わたしも女子高生の頃以来かなあ。でも意外と憶えてるもんだね」
薫と岸本は人生初の編み物にかなり苦戦したのだが、琴絵は若い頃にそこそこやったことがあるらしく、2限の授業でかなり編み進めていた。
「琴絵姐さんのJK時代か、可愛かったですか?」
岸本が枝豆を口に放り込みながら訪ねると琴絵がニヤリと笑った。
「そうりゃあもう、いつも下校時に彼氏がクルマで迎えに来てたよ」
「おお、さすが。姐さんはJ女子高だったですよね。僕はI市の家から高校まで往復の毎日でN市内の学校はあんまり知らないんだけど、あの紺色の制服のところですかね」
「そうそう。あのボックスプリーツのジャンパースカートのやつ。ダサかった」
ミッション系のJ女子高は校則が厳しくて、スカート丈を短くしたり制服を着崩す生徒はほとんどいなかったという事だ。

「オレが今付き合ってる人もJ女子高出身ですよ。」
岸本がポツリと言った。
「そうなんだ。わたしの後輩だね」
「ちなみにその娘も現在J女子中生です」
岸本が苦笑する。
「彼女さん年上なんですよね。その、結婚の話とか出たりしないんですか」
薫の問いに岸本はうなずいた。
「はっきり結婚してって言われたことはないけど、このままズルズルと付き合っていくのはお互いによくないと思ってるよ」
「そうね、相手も再婚の意思があるんだったら、年齢的にそろそろはっきりした方がいいかもね」
琴絵も同意する。

「結婚かあ、いずれはオレもって考えはするけどイマイチ実感がないんだよなあ。経験者の薫くんは、あっ!!ごめん!」
岸本が言いかけて絶句した。
「えっ!?どういうこと?」
琴絵が目を丸くする
「大丈夫ですよ岸本さん。別に隠してたわけじゃないし、姐さんにはいずれ話したいと思ってましたからいい機会です。」
軽く微笑んで薫が語り始めた。