薫と毬花は大学4年生になり就活真っただ中だった。薫の志望は専門商社やB to Bのメーカーで毬花は中小の出版社を狙っていた。

そんな4月のある日、スーツ姿の二人はカフェで向かい合っていた。毬花は黒のパンツスーツだったが、薫は喪服みたいな色が嫌いで就活は濃紺のスーツでと決めていた。
「みんな黒服で何か異様な感じがするけど薫くんのはいいね」
毬花が薫のチョイスを褒める。
「だろう?ウチの父親に聞いたら昔は大体紺かダークグレーだったそうだよ。いつからあんなカラス軍団みたいになったんだろうって言ってた」
「わたしも黒なんだけど葬式にも着ていけるかなと思って買っちゃったんだよね」
「毬花のは似合ってるからいいと思うよ。なんだか日本人離れして見えるし」
肌や虹彩、髪の色素が薄い毬花が全身黒をまとっていると、確かに国籍不明な雰囲気がある。
「それ褒めてるんでしょうね?」
「もちろん!その服に黒いサングラスでも掛けたら弾丸をのけぞって避けられそうだよ」
「そんな能力あったらもう就活なんてしなくていいよね」

毬花は“疲れる~”と言ってテーブルに突っ伏した。縮小する一方の出版業界で内定をゲットするのは、なかなかにハードなようだ。
一方薫はと言えば第一志望ではないながらも、すでに内定が一社出ている。
「薫くんさすがだなあ。どんなことでもやると決めたらものすごい集中力を発揮して、一気に決めてしまうんだもん」
「おだてても今日は何も出ませんよ。しばらく何もバイトしてないから金欠なんだ」
薫がスーツのポケットをたたく。
「でもほとんど毎日練習してるのによくバイトまでできるもんだね」
「さすがに体を使うのは無理だって。家庭教師だよ」
「可愛い女子高生だったりして」
「カワイイ男子中学生だ」
「アッー!」
「そんな訳あるか!!」
薫が頭に軽くチョップすると毬花は再びテーブルに倒れ伏してしまった。