大会は主任先生(推定50歳)の予言通り薫が優勝して終わった。なんと各県の優勝者は1来月の地域大会に参加できるそうだ。
表彰式が終わり祝勝会という名目で薫たちは軽く食事に行くことにした。メンバーは薫、岸本、恭平、梓、美紀、吉川(酒好き)琴絵、下田(ドS)幸恵である。
「優勝おめでとー」
「カンパーイ!」
成人組は当然ビールだが、薫は車で来ていたのでウーロン茶で我慢する。
「しかしアズちゃんから話には聞いてたけど、薫くんってホントに強いんだねえ」
琴絵が早くもグラスを空けて言った。梓以外は薫のテニスを見るのが初めてだったのでかなり驚いたようだ。
「大学にはテニスで行ったの?」
幸恵が尋ねる。
「いえ、行きたいと思ったところからはお誘いがなくて、必死で勉強して行きましたよ。あの時は思い出したくないくらい辛かったなあ、妹からも不気味なものを見るような目で見られるし...」
薫が遠くを見る目で行った。
「そ、そう。確かに薫くんって集中するとすごい力を発揮しそうだもんね」

「話は変わるけど恭平くん、今日も東野ちゃんに迫られてたね」
琴絵が唐突に話を変えた。顔にはからかうような笑みが浮かんでいる。
「姐さんやめてくださいよ。オレ他に好きな子がいるんで」
「おお~!」
皆から歓声が上がった。薫は恭平の視線が一瞬だけ美紀のほうに向けられたのに気付いた。だが当の美紀は全く分かっていない様子だ。皆と一緒になって「誰?誰?」などと聞いている。恭平は苦笑するしかない。
(恭平くんガンバ!)
薫は心の中でエールを送った。

2時間ほど楽しく過ごして祝勝会はお開きとなった。岸本と琴絵、幸恵は路線バスで帰り、残りの4人は薫の車に便乗した。。美紀をT町の自宅、梓をJRのN駅で降ろした後、薫は恭平を家まで送ることにした。
「すみません送ってもらって」
「いいよ、ウチから車で10分くらいだから」
「岸本さんから聞きました?オレのこと」
「うん聞いた。僕からは頑張ってとしか言いようがないけど」
恭平が腕を頭の後ろで組む。
「なんか夏前くらいから妙に気になっちゃって。でも向こうは全く気にもしてないみたいで...」
薫の目からも確かにそう見えた。美紀は単なる友達の恋バナを聞いている顔をしていた。
「今のところ一方通行か。ベクトルを操れるかも」
「言ってることがわかりません」
「僕は片思いってしたことがないからアドバイスしようがないんだよな」
「なんなんですか!今とてつもない嫌味を聞かされたような気がするんですけど」
薫は慌てて弁解する。
「違うって、僕は恋愛経験が一度しかなくて、それが最初から運よく両想いになれたから」
「ふ~ん、女性陣は皆、薫さんはすごくもてるだろうなって言ってますけどね」
「中高の頃は告白されたりバレンタインのチョコをもらったことはあるけど、彼女はいなかったからね」
「やっぱり嫌味だ!もうイヤこの人」
恭平がガックリとうなだれた。薫は、こと恋愛に関しては全く役に立たないポンコツなのだった。