後期の授業が始まる前に県内の専門学校が集まってスポーツ大会が開かれた。
種目はサッカー、バレー、バスケットなど10種目で、主任先生(推定50歳 独身 女性)の強い勧めもあって薫はテニスにエントリーしていた。

テニス競技は団体戦と個人戦があるのだが、ひまわり福祉専門学校にはほかにテニスをやっているものがおらず、薫は個人戦シングルスのみに出場することになっていた。
試合会場のK運動公園庭球場には2,3名を除くほぼクラスメイト全員が集まっていた。介護福祉士養成科で本格的にスポーツをやっているのが薫だけで、他に競技に参加しているものがいなかったのだ。

主任先生が、専門学校同士の打ち合わせの席でものすごく吹きまくった結果、薫には第1シードが与えられていた。
(榊くんは学生の頃県内で負けたことがなかったそうですよ。インターハイや国体にも出ていい成績を残してますし、優勝間違いなしです)
1回戦がbye(試合がないこと)となっている薫はスタンドで岸本と雑談していたのだが、恭平の姿がないことに気付いた。
「あれ恭平くんは?さっきまでその辺にいたけど」
「ほら、あそこ」
岸本が親指で示す方を見ると、スタンドの一番端で恭平が同じくらいの背丈の女の子と一緒に何か話していた。新卒組の東野理沙のようだ。
「東野ちゃんは恭平にご執心なんだよ」
「ああ、そういえば教室でもよく恭平くんに話しかけてるな。たしか恭平くんはいま付き合ってる子っていなかったですよね」
「付き合ってる子はいないけど好きな子はいるみたいだぞ」
岸本がさっきと反対方向を指さす。その先には、
「ええっ!庄司(55歳 美人)さん?」
「そんなわけあるかい!」
指さした先にいるのは、梓と美紀それに庄司美佐子(55)だった。
「美紀ちゃんだよ、オレもつい最近聞いたんだ」

以前に恭平と美紀は同じ高校の出身だと聞いたことがある。オリエンテーリングの時もその縁で一緒に行動したことを薫は思い出した。
「若い男女がそれなりに集まってたら恋バナの一つや二つ出てきますよね」
「何をオッサンみたいなこと言ってるんだよ、薫くんだってその中に入ってるだろうが」
岸本がやれやれと言った風に眉毛を下げて言った。