薫と梓の二週間にわたる実習が無事終わった。薫はともかく、梓も大失敗をやらかさずに最後まで乗り切れたのは喜ばしい事だった。
「明日の夜、岸本さんや恭平くんと打ち上げやるんだけどアズちゃん来れない?もちろん美紀ちゃんや他の子もよかったら」
帰り道に薫からそう告げられた梓は心の中でガッツポーズをした。
「行きます!美紀にも聞いてみますね」
美紀には何があろうとも参加してもらわなくては。
「うん、メンバーが決まったら集合場所とか連絡するよ」

その夜、最後の日誌を全力で書き上げた梓は早めに床についたが、なかなか寝付けなかった。妄想のせいだ。
打ち上げの2次会でみんなとはぐれ薫さんと二人きりに。私は酔った勢いで腕を絡め...
(だめだ、未成年はアルコール禁止ね、と薫さんに釘を刺されているんだった)
一人で顔を赤くした梓は眠る努力をすることにした。
(エイリアンが1匹、エイリアンが2匹...)
明け方にシ〇ワちゃんが両腕にマシンガンを抱え、エイリアンの大軍をなぎ倒している夢を見た。

翌日午後6時、N駅前のツバメ広場に集合したのは、薫、岸本、恭平、梓、美紀、それに南沙也加の6人だった。飲み会好きの吉川琴絵は旦那の実家に行く用事があるとのことで、ものすごく悔しがっていたそうだ。
近くの黒松屋に落ち着いた一行は、成人組は生ビール、未成年組はソフトドリンクで乾杯した。
「おつかれさま~!」
「お疲れさまでした!」
その後は実習のときの失敗談や気に食わない指導者の話でひとしきり盛り上がった。もちろん個人情報の漏洩に注意して、声が漏れにくい個室にしてもらっている。
「アズちゃんは薫くんと一緒だったからいろいろと助かったんじゃない?」
酒が強い沙也加が一気にジョッキを開けていった。
「ハイ、最初は日誌が書けなくて泣きそうになってたんですけど、薫さんにアドバイスもらって何とかやれました」
「いいなあ、私なんか柿本くんだよ。こっちから話しかけないと会話もないし、何考えてるんだか全然わかんないし」
美紀がぼやく。新卒の柿本昭は誰かの話に入りはするが、自分から発言することはほとんどない影の薄い男子だった。
「オレもなんか柿本って苦手なんですよね。」
恭平が同調する。
「岸本さんとかとコンビニ行ったりユニシロに服見に行ったりすると、何となく後ろについてきてるんだけど、ただそこにいるだけで、自分から何か提案したり話を広げようとしたりすることがないって言うか…」
「確かになあ」
岸本がうなずいて言った。
「自分から溶け込もうっていう意識は全くなさそうだよな。悪いけど一緒にいても楽しくはないね。沙也加さんはどう思う?」
「確かに一緒に飲みたいとは思わないですね。新卒組が二十歳になってから大手を振って飲み会を開けるようになっても、メンバー的には今いる6人とあとは...琴絵姐さんと下田さんくらいじゃないかな、楽しいのは」
全員がうなずいた。