実習も二週目に入り、利用者に危険の及ばない範囲で薫たちにも基本的な業務が割り振られるようになった。とはいえ実際の身体介助などには危険が伴うので見学が基本だったのだが。
そんな中、薫は梓に感心することがよくあった。普通に考えると、十代の若者が高齢者とコミュニケーションをとることは相当に難易度が高いと思うのだが、梓を見ていると“目線を合わせ”、“笑顔で”という基本的なことがとても自然にできている。おそらく無意識にやっていることだ。
また、言語によるコミュニケーションが難しい人にたいしても、手を握ってにこにこしながら横に座っているという、いわゆる非言語コミュニケーションの取り方が実にうまい。これも頭で考えているのではなく、どうにかしてその人とコミュニケーションを取りたいと思う気持ちがそうさせているようだった。

僕とは違う。薫はそう感じる。自分なら相手の身体状況や認知能力をまず図り、その上で適切な対応を選んで行動するといった、よく言えば冷静な、悪く言えばAIじみた流れになるだろう。
もちろん今後身につけるべき知識や技術は多くあるが、受容や共感といった、福祉の基本を梓はすでに持っているようだ。
素晴らしいことだな、と薫は素直に思う。
(まあ今夜も日誌の内容についてアドバイスが必要なんだろうけどね)